アジアと中所得の罠(下)より

13億の民を満足させることは、誰が考えても困難でしょう。いつ暴発するか分からない国がお隣さんなのです。
●アジアと中所得の罠(下)より 2014/08/30

日経:経済教室「中国、農村部の発展に挫折」(2014/08/28)を読んだ。東京大学准教授:川島博之氏が書いたものだが、実によくまとまっている。素人の私が専門家の分析を評価するのも変だが、私レベルでもよく分かるからだ。これを読めば、天安門事件以降の中国の農民と、第二次大戦以降の我が国の農民とには多くの類似点を見出せる。たった一つ大きく異なることは、中国では農民には土地の所有が認められず事実上農奴状態にあったことだ。この違いが現在の中国の農民の貧困の度合いをより厳しくしたことが読み取れる。思うに、我が国の農家も中国の農家も今後は世界標準の中で競争しない限り米国の農家と同様の生活レベルを求めることは困難であろう。

現時点での中国の農民の人口比は60%(*1)近い。一戸あたりの耕作地は3.1ヘクタールで、我が国の農家(*2)の約1.5倍とほぼ誤差範囲といえる。工業化は今も進展しつつあるが、農家の貧困化による社会不安をどう解消するかは見えない。川島氏は中国の農業の問題点を次のように述べており、現在の我が国の農業との類似点を挙げ警鐘している。以下に氏の意見をそのまま転記する。
 *1:我が国は2%
 *2:我が国は2.2ヘクタール


 農業は食料を生産する産業である。長期の観点からみれば、農産物の生産量の増加は人口増加に等しくなる。静的な産業であり、工業のように年7%などといった目覚ましい発展を遂げることはない。

 しかし、この基本法則を農業研究者や農政に携わる官僚、そして地方を選挙区にする政治家が理解することはないようだ。農業のそばにいるために思い入れが強くなり、置かれた状態を客観的に捉えられないためだろう。

 そのために、都市と地方の経済格差が目立つようになると必ず農業振興策が打ち出されることになるが、経済発展とは工業化のことであるから、農業振興で地方が豊かになることはない。農業では豊かになれないために、農民が職を求めて都市に流入するようになる。中国の農民工とはまさにそうした人々である。


今後の中国の工業化が増加する農民工を吸収できず、食糧生産に失敗し、一人っ子政策の歪みによる高齢化問題が表面化すれば、その規模を考えると想像を絶する大混乱も考えられなくもない。これに対して、川島氏は「日本が中進国の罠から抜け出し、先進国入りした経験を積極的に教える」ことで、アジアの政治の安定と日本の国益につなぐべきとのことだ。もし中国が日本と同様の社会になるとすれば現農民8億の9割以上を商工業で吸収しなければならない。それを考えるとその施策の提案はそう簡単なことではない。勿論、中国の為政者は、尖閣やスプラットリなどの対外的な威嚇での民意高揚のみならず、民の繁栄を願い自国内での産業繁栄と食料増産を考えているハズだ!まさか、混乱に乗じて自身と親戚縁者のみが巨額の富を国外へ持ち逃げすることなど考えてないと思うが?そのようなことが起きれば、13億の民の怒りを制御できなくなり、全世界を巻き込む大混乱が起きるだろう。我が国の歴史を振り返れば、5.15事件は世界恐慌、2.26事件は政治腐敗や農村の困窮が遠因とされ、最終的に第二次大戦に突き進んだが、歴史は繰返すというフレーズが気になる。
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