すてきな人生 北村太郎

親父が仲間から謹呈された最後の本です。
●すてきな人生 北村太郎 2013.03.19

北村太郎の最後の本である。この書評を親父が現代詩手帳1993JULYに書いている。彼との書簡のやりとりについて、そして彼の病気について、さらに彼の業績について・・・と記載した後に、毎朝喫茶店で各新聞を読む彼の日常が親爺と一緒だったことを面白がっていた。親父が亡くなる数年前、まだ自宅で最後の日々を楽しめた頃、80代始めだったろう、親父は新聞を開いているのだが次のページに進めないのである。痴呆が進行し、同じページをずっと見続けているのだ。その頃にはもう何も書けなくなっていて、仲間の詩人は全滅していた。

親父は北村太郎と、酒が飲めないという点で特に気があっていたようだ。荒地はよいどれ詩人が多いが、飲めない人の代表は北村太郎と鮎川信夫だ。そういうこともあったのだろう、親父はこの二人との会話や書簡のやりとりが多かったようだ。ただ、親父の遺品を調べても書簡が全て盗難にあったので検証しようもないが。

北村太郎は猫が好きだったそうで、猫のエッセーが何篇かあり、T.S. Eliotの猫の本を翻訳している。一方親父は猫が好きだったとは思えないが、歳を経るにつれ猫のことが気になるようになったようで猫のエッセーを一編書いている。私が進学の為に家を出てからのことでその白猫のことは全く覚えてないが、それなりに含蓄があるエッセーである。

この本に挟まれていたしおりは謹呈のタグで、猫の顔のイラストと榎木融理子とあった。榎木さんは北村太郎の娘さんとのこと。ちょっとWebでサーチしてみたが、娘さんということもあり北村のイベントの世話などに積極的に参加しているようである。ただ北村が亡くなって20年近く過ぎたことからそのアクティビティも少なくなっているようだ。北村太郎だけでなく、終戦後一世を風靡した荒地の詩人達は全て記憶の彼方に追いやられている。誰もが消え去るがごとく!
元に戻る