IBM産業スパイ事件のこと

IBMも富士通も、既存のマーケットしか見てなかった時に、マイクロソフトは意図してか?運良くか?全く新しい独占的マーケットを作ってしまいました。この瞬間にもこのジャンルは、いや全てのジャンルで状況はドラスティックに変わっています。

ビル・ゲイツ氏は「この千載一遇のチャンスに、悠長にお勉強などしてられない」と言って、ハーバードを中退しマイクロソフトを設立したとのこと。つまり、完璧に見通していたということでしょう。

私もビルさんにあやかりたいが、落差がありすぎて冗談とも聞こえませんね!
●IBM産業スパイ事件のこと 2013/04/28

今日の日経を読んでいたら、「IBM産業スパイ事件 1982年 知財紛争の始まり」というカラムに当時の状況をまとめてあった。紛争に巻き込まれた富士通、日立、三菱はひどい目にあったのだが、私が会社に入った頃(1973年)はソフトウェアに著作権は無かった。ソフトはハードのおまけであり、ハードが商品というのが当時のコンピュータビジネスだった。コンピュータ創世の頃はハードの値段にソフト作成費やメンテナンス経費なども一括して計上していたが、それが徐々に分類されていったと思われる。私の入社時には、ハード部門とソフト部門は分離されていた。なお紛争時の状況は、富士通元副会長鳴戸道郎氏が書いた「雲を掴め 富士通・IBM秘密交渉」(日本経済新聞出版社)に詳しい。

鳴戸氏は私が管理職試験を受けた際の面接官だったが、想定内の質問で15分ほどの面接が終わるかと思ったら、最後に『アメリカと日本の文化の違いはなんだと思うか?』と来た。オッ、想定外だぞ!とさしもの怖いもの知らずの私もギクッとしたが、ふと思いつき一呼吸おいて『業務から感じることは、直訳と意訳の違いだと思います』と答えた。それに対し何の返事もなく、さらに少々間を措いて『もうよろしい』で終わった。これはもしかして受かったかとも思った。とっさの出来事だったが、我なりに良く出来た"お返事"だったからだ。鳴戸氏は当時私が出向していた子会社(*)が所属する海外事業部門のトップで、それまで会ったことも無かった。この子会社、同部門では掃き溜めと言われ最低ランクとのことで友人の情報だと「絶対受からない」だった!事実それまでに受かった人は皆無だった。落とす為の質問に、模範解答が出てしまったのだろう。私自身を振り返ればこれも含め"運のみ"の綱渡り人生だった。
*:最も小さい子会社の一つで、本社のドキュメント関連の仕事の下請けだった。

ところで、紛争当時のことだが、富士通がIBMに支払った最初の額は噂では100億円くらいだということだ。これは経営陣の想定額よりもかなり安かったのか、当時社内は楽観ムードが溢れていた。末端にいて何の情報も無い平社員の私にさえ、その雰囲気が感じられた。ところが、これは序章であって、延々と続いていくことが鳴戸氏の本に記載されている。IBMはその時点で既に世界を制し、一方富士通は日本ではトップだったから互いに譲らなかったのだ。その間隙を突いて、ニューメキシコ州の小都市アルバカーキのベンチャーが富士通は勿論IBMをも軽く凌駕してしまったことは皮肉だ。そのマイクロソフトでさえも明日は主役であるかどうか全く予測できない。未だメインフレーム(*)は銀行オンラインなどで生き残っているが、はるか昔に大鑑巨砲主義の代表的商品になってしまった。なお、この記事だと83年には富士通と日立はそれぞれ1000億円近いソフト使用料を払う「秘密協定」を結んだとある。しかし、再びIBMは富士通がこの協定に違反したとして、88年のAAAの裁定で2億3700万ドルの和解金を払ったそうだ。当時は130\/$だから308億円になる。
*:大型汎用コンピュータをメインフレームと称していた。当時はミニコン(ミニコンピュータ)というジャンルもあったが、今やワークステーションに統合された。

いかなるジャンルでも永遠にトップを走り続けることは不可能で、組織も人と同様老化する。簡単に言えば(*)、組織が腐るか、取り扱っている商品が腐るのだ。その際に組織や商品が大きければ大きいほど倒れ方が激しい。会社経営の難しさはここにあることが分かっていても、つぶれる会社は多々ある。およそ世の中に経営に関与する学者やコンサルタントは星の数ほどいるが、どうにも打つ手がなくなりもんどりを打って倒れるのだ。我が社もそうならないようにせいぜい注意しよう。だからといって何をどうすれば良いのか?社長がこんなことを言っていたのでは、投資家も集まらないだろう!最後に「当社は"秘策"を練っており、投資を請う」といってもジョークにしか聞こえないだろうか?本気なんだが!
*:経済学、経営学を勉強された方には常識だろうが、この常識を踏まえた企業経営が難しい。もっともこの二点以外のパラメタも山とあろうが、それを述べ始めるとエッセーが終わらない!
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